これが、文部省が日中戦争初期の昭和12年に国民に求めた「社会風潮一新生活改善十則」である。
これも歴史の一局面だね。( ̄ー ̄)
社會風潮一新生活改善十則 文部省
一、時艱の克服、一致團結
此の度の事變( 事変 )は、其の由つて來るところが遠いので、これがどんなに移り變るか容易に見透しはつきません。國民( 国民 )たるものは堅忍不抜の精神( 精神 )を以て今後に來るべき如何なる艱難に對しても和衷協同、力强い團結( 団結 )により之を克服して所期の目的を貫徹せねばなりません。
二、不動の精神困苦に堪へよ
我が國民性は熱し易くさめ易いと云はれますが、決してさうではありません。遠くは元寇の役といひ、近くは日淸日露の戰役( 戦役 )といひ、滿洲事變( 満州事変 )といひ、如何なる艱難をも克服し來つた事は國史( 国史 )の示す所であります。此の度の事變に當つても一時的興奮にからるることなく、帝國( 帝国 )の大使命たる東亞( 東亜 )の平和實現( 実現 )のため、不動の精神を以て克く困苦に堪へ、各自の持場を守りませう。
三、協力一致銃後の固め
支那各地に出動せる忠勇なる皇軍將兵( 将兵 )諸士は、粉骨碎身あらゆる辛苦をものともせず、死を決して陸に、海に、空に、皇軍の威力を發揮( 発揮 )して居ることに對しましては、全國民の深く感謝して居ることでありますから、これ等出動將兵諸士への慰問を忘れてはなりません。これ等出動將兵諸士は家に在つては一番の働き者であつたから、出動した後に殘つた家族が困るやうなことがあつてはなりません。最寄の者は互に助け合つて後顧の憂なからしめるやうに致したいものであります。斯く助け合ふ協同勞作( 労作 )は生產力( 生産力 )の維持といふ意味深いことにもなるのであります。
四、働け身のため國のため
忠勇なる皇軍將兵諸士は、水火を物ともせず盡忠報國( 尽忠報国 )の誠を捧げて居りますが、我等内に在る國民たるものは、
明治天皇の御製
國をおもふみちにふたつはなかりけり軍の場にたつもたゝぬも
の大御心を奉戴し、各自の職分を通じて、働き働き、根限り働いて、國家のために盡すは勿論、この際進んで國家のため必要な仕事について、御奉公の誠を致したいものであります。
五、備へよ常にあらゆる力
近代の戰爭( 戦争 )は武力だけの戰でなく、國のあらゆる力の戰であります。從つて總ての國民が戰地に在るの心構へを以て常に備へて居らねばなりません。それにはまづ各人の健康が第一であります。又家庭に於ける防空訓練の如きも他人まかせではいざ鎌倉といふ時に役に立ちません。又豫算生活の如きも常に収入の幾分かを餘し、之を蓄積して不時に備へ、尚進んで國債等に應募するやうに致したいものであります。
六、陋習の打破、形よりは精神
我が國の冠婚葬祭、宴會( 宴会 )、贈答等は、とかく虚禮( 虚礼 )虚飾に流れ、形式に走つてゐることが多く、また時間勵行なども傳統( 伝統 )の久しき容易に改善し得ないで今日に至りました。此の時局に際してこそ國民心を合せ、これ等の陋習を打破し、それ等の精神を重んずるやうに致したいものであります。
七、工夫して物を活かせ
我が國の資源は割合に乏しいのにかゝはらず、一般に資源の愛護に留意せず、又物の活用に對する工夫努力が十分とは申されません。されば此の際お互に資源の愛護、代用品の使用等を工夫して資源の活用に努めたいものであります。特に毛織物、綿織物、金屬類、ゴム、紙類等の消費を抑制し、是等の廢物利用には十分の工夫をこらしたいものであります。
八、舶來品より國産品( ここの産は旧漢字ではない )
我が國民には、外國より來たものを舶來品として尊重するの風が殘つてゐますが、今日では國產品に却て優良なものが多いし、よしんば多少惡くとも益々國產品を愛用して其の生產を盛んならしめひいては海外輸出を進展せしめ、以て國運の隆昌を圖りたいものであります。
九、無駄を省いて國力を培へ
吾々の生活には、無駄が多く、爲に自然と生活費がかさみ、貯蓄の餘裕が少いのであります。然るに一家の經濟( 経済 )は結局國家經濟力の基でありますから、此の際大いに覺醒して、生活の方法を改善整備し、出來るだけ無駄を省き冗費を去り、依つて生じた餘裕を貯蓄して、大いに國力を培ひたいものであります。
十、戰に勝つても奢りに敗けるな
ローマは戰では勝つたが、奢侈贅澤で亡んだと云はれてゐます。之は往々にして有り勝のことでありますが、國民は戰勝に酔うて奢侈に陥るやうなことが有つてはなりません。よしんば如何なる苦難に遭つても最後の勝利を期し、我が國民に與へられたる此の度の歷史的大事業を、我々の時代に於て解決するの覺悟( 覚悟 )を以て、日々の業務を果さねばなりません。
一部の漢字は原文と違います。
では各項目の感想でも一つ:
第一項は、支那事変(日中戦争)がどの様な展開なるか分からないと書いている。なら、どうするのかと言えば、ただの精神論を書くだけだし。
何かあれば、一致団結としか言わないね。
第二項は、本当に国民性が、熱しやすく覚めやすいのか?
これはそもそも、国民に覚めてもらったら、政府が困るだけのことでしょ。国民を熱狂させて冷静に判断できない状態にしておけば、戦前の遂行も楽になるからね。
「一時的興奮にかられることなく」 つまり、常に興奮してろと言ってる訳だ。「帝国の大使命たる東亜の平和実現のため」にね。
ちなみに、戦前は自国の歴史を「国史」と表記していました。
第三項は、「忠勇なる皇軍将兵諸士」 戦前から「皇軍」は普通に使う表現ですよねぇ。
助け合いを重視するのは良いとしても、強制されるものではないからね。
第四項は、「国の為に全てを捧げて犠牲に為れ」 これ以外の解釈があるかな?
第五項は、ここでも防空訓練について言及しているが、結局は、国民に危機感を持たせるためか。
収入のいくらかを残して、国債を買えと書いてある。もちろん、軍事のためにね。
第六項は、虚礼虚飾に流れないように、との主張に関しては、素直に納得出来る。
これは現在も何も変わってないね。
第七項は、物を無駄にするな、と言っているが、これも全ては戦争のためでしかないからね。
第八項は、外国産品より国産品を買え、だ。
第九項は、無駄な出費をはぶいて、積極的に貯蓄しろと書いてあるが、これも当然、軍事予算のためですよ。
それにしても、第七と第九の内容と第八の内容は矛盾するね。「代用品の使用」「消費を抑制」「廃物利用」そして「無駄をはぶいて貯蓄しろ」と書いておきながら、国産品を積極的に買えと言うのだから。
第十項は、奢侈贅沢を批判するのにローマを引き合いに出しているが、戦前の日本でもローマは馴染み深い存在だったのかな?
「我が国民に与えられたる、この度の歴史的大事業」 実に御大層な表現じゃないか。ヽ( ̄▽ ̄)ノ
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